助成金がもらえない5つの理由|中小企業が陥りやすいNG行動とは?
はじめに|「助成金がもらえなかった」という声、実は多いんです
「助成金を申請したのに、結果は不支給だった」
「せっかく取り組んだのに、受給できずに終わってしまった」
そんな声を、私たちは日々の相談の中で数多く耳にします。助成金は、原則として要件を満たせば受給できる“返済不要”の制度であるにもかかわらず、申請が通らないケースが後を絶ちません。
では、なぜ助成金がもらえないのでしょうか?
そこには、制度をよく理解しないまま申請してしまったり、思い込みによって重要なステップを飛ばしてしまったりといった、“中小企業が陥りやすい典型的な失敗パターン”があります。
この記事では、助成金がもらえない主な5つの理由をわかりやすく解説し、申請で失敗しないための具体的な対策をお伝えします。
助成金がもらえない理由①:労務管理の基本ができていない
助成金は、「制度に取り組んだかどうか」だけで判断されるわけではありません。まず大前提として、企業が適正な労務管理を行っていることが条件となります。
とくに、以下のような違反があると申請段階で不支給になる、もしくは後の調査で返還命令が下されることがあります。
- 時間外労働・深夜残業・休日出勤などの割増賃金が適切に支払われていない
- 最低賃金を下回る給与設定がなされている(特に“固定残業代制度”での計算ミスに注意)
- 労働条件通知書が交付されていない、内容が曖昧
- 休憩時間や休日の取り扱いが法令に反している
これらはすべて、「書類を整えればなんとかなる」という話ではなく、実態として法令を順守しているかどうかが問われます。助成金申請を検討する前に、まずは自社の労務体制を見直すことが重要です。
助成金がもらえない理由②:必要な届出や計画書を出していない
多くの助成金は、制度の導入“前”に計画書や届出の提出が義務付けられています。これを怠ると、たとえ社内で立派な制度を導入しても、助成金の対象にはなりません。
よくあるのが、以下のような失敗パターンです。
- 非正規社員を正社員に登用したが、キャリアアップ助成金の計画書を提出していなかった
- 育休制度を整備し社員が育休を取得したが、両立支援助成金の申請に必要な届出を出していなかった
- 社員教育を実施したが、人材開発支援助成金の訓練計画届を提出していなかった
制度によって提出先や提出タイミングは異なりますが、共通して言えるのは、「制度を実施する前に必ず申請書類を提出しなければならない」という点です。
“先に制度を始めてしまった”は、助成金では致命的なミスになりかねません。導入前に必ず厚生労働省のホームページや制度要項を確認し、必要な手続きがあるかどうかを把握しましょう。
助成金がもらえない理由③:記録が不十分、または整合性がない
助成金申請では、「何を実施したか」を裏付ける書類の提出が求められます。しかし、記録が不足していたり、書類間で矛盾がある場合、審査で不支給になる可能性があります。
たとえば以下のようなケースです。
- 出勤簿と賃金台帳に記載された勤務時間が一致していない
- 雇用契約書では“正社員”と記載があるのに、就業規則の定義が曖昧で転換の根拠が不明
- 実施した研修の記録が残っていない(実施日、内容、出席者が確認できない)
こうした矛盾や不備は、“制度を実施した実態がない”と判断される大きな要因になります。助成金は、書類上だけでなく、実際の運用内容や記録の整合性が極めて重視される制度なのです。
助成金がもらえない理由④:不正受給や過去の違反履歴がある
過去に助成金の不正受給や不適切な申請を行っていた企業は、その後一定期間、すべての助成金申請ができなくなります。原則として、不正が発覚してから5年間は受給停止措置が取られます。
不正の代表例は以下の通りです。
- 実際には転換していないのに正社員化したと偽って申請した
- 架空の研修を実施したことにして人材開発支援助成金を申請
- 従業員の同意なく、勝手に助成金の対象者として名前を使った
一度でもこうした不正があった場合、助成金の信頼性にかかわるため、再発防止の取り組みも含めて厳しくチェックされます。また、申請時に過去の不備や違反が発覚して、現在の申請が不支給になるケースもあります。
助成金がもらえない理由⑤:助成金ありきで制度を導入している
助成金を「お金がもらえるから制度を導入する」と捉えている場合、実際の運用が形だけになり、結果として職場に混乱が生じることがあります。
たとえば、パート社員を正社員に転換したものの、賃金や職務内容に大きな変更がなく、本人から不満が出た。あるいは、育児休業制度を形だけ整えたものの、職場の理解が得られず、復帰しにくい雰囲気になった。
こうしたケースでは、社員とのトラブルに発展したり、社内の信頼が損なわれたりする結果になりがちです。
助成金は、会社の制度改革をサポートするものであり、本当に必要な制度を「助成金を使って実現する」ことが望ましい形です。助成金が目的化してしまうと、企業の成長につながらないどころか、かえってリスクを抱えることになります。
事例紹介|見落としで不支給になった中小企業のケース
ある飲食業の事業主は、長年働いていたアルバイトスタッフを正社員に登用しました。本人の希望もあり、登用後は積極的に仕事を任せるようになり、現場の雰囲気も良くなりました。
そこで事業主は、「キャリアアップ助成金が使えるかもしれない」と思い、正社員化から3か月後に助成金の申請準備を開始。ところが、申請窓口で言われたのは、「キャリアアップ計画書を転換前に提出していないため、対象外です」という冷たい回答でした。
このケースでは、助成金の対象になる要件は満たしていたにもかかわらず、「事前の届出」という1つのプロセスが抜けていたことで、不支給になってしまったのです。
まとめ|“もらえない”のは制度ではなく準備の問題
助成金は、国が制度を整備し、企業の改善努力を支援するための仕組みです。そして、一定の要件を満たしていれば、原則として「確実に受給できる制度」です。
にもかかわらず、もらえない理由の多くは、以下のような「準備不足」「知識不足」「誤解」にあります。
- 制度導入前に申請書類を出していない
- 書類はあるが内容に整合性がない
- 法令違反や管理体制の不備がある
- 助成金を目的化し、制度が社内に根づいていない
こうした“もったいない不支給”を避けるためには、まずは自社の労務管理体制を整備すること、そして信頼できる情報源や専門家から正確な情報を得ることが大切です。
制度は毎年のように見直され、金額や申請要件も変更されます。申請を検討する際には、必ず厚生労働省のホームページや都道府県労働局などの公式情報を確認しましょう。