【2025年版】中小企業が必ず押さえておきたい助成金の基本と種類まとめ

はじめに|助成金は「特別な会社のもの」ではない
「助成金って、ウチみたいな小さな会社には関係ないのでは…?」
そう思っていませんか?
実はそれ、大きな誤解です。
助成金とは、厚生労働省などが実施する制度で、労働環境の改善や人材育成など、企業の前向きな取り組みを後押しするために支給される“返済不要の支援金”です。とくに、雇用関係の助成金は、雇用保険に加入している中小企業であれば、ほとんどのケースで対象になります。
この記事では、「助成金って何?」「どんな種類があるの?」という初歩的な疑問にお答えしながら、2025年時点で中小企業が活用しやすい代表的な助成金制度をわかりやすくご紹介します。
助成金とは?補助金との違いも解説
まず、よく混同されがちな「助成金」と「補助金」の違いを説明します。
助成金は、雇用保険料などを財源とし、一定の条件を満たしていれば原則として支給される制度です。つまり、採択制ではなく、制度の要件に該当していればほぼ確実に受給できます。たとえば、「パートを正社員にした」「社員に研修を行った」など、実際に取り組んだ事実に対して支給される仕組みです。
一方、補助金は国や自治体の予算によって実施されるもので、申請しても必ず採択されるとは限らず、審査を通過した場合のみ支給されるものです。たとえば「ものづくり補助金」などは、事業計画を提出し、評価された一部の事業者にだけ補助が出ます。
つまり、助成金は「条件を満たせばもらえる制度」、補助金は「選ばれたらもらえる制度」と覚えておくとよいでしょう。
助成金はどんな会社が対象になるのか?
助成金の対象となるのは、基本的に雇用保険に加入している事業主です。中小企業であっても、従業員を雇っており、労働保険や社会保険にきちんと加入していれば、申請の対象になります。
ただし、すべての会社が無条件でもらえるわけではありません。主に以下のような条件を満たしている必要があります。
- 雇用保険に適正に加入している
- 労働関係法令(労働基準法、最低賃金法など)に違反していない
- 就業規則や賃金台帳、出勤簿など、基本的な労務管理書類が整備されている
- 労働保険料や社会保険料の滞納がない
- 過去に助成金の不正受給などがない
とくに重要なのが、「労務管理がきちんとできているかどうか」です。助成金は、経営者の善意や熱意を評価して支給されるわけではなく、「法令を守っている企業」に対して支給されます。つまり、助成金をもらうために労務管理を整えるのではなく、整っている企業に助成金がついてくるという認識が重要です。
中小企業が活用しやすい代表的な助成金5選
ここからは、数ある助成金のなかでも中小企業が比較的申請しやすく、効果を実感しやすい代表的な制度を5つご紹介します。なお、助成金の内容(要件)や金額は頻繁に変更になりますので、申請をする場合には厚生労働省のホームページなどで最新の情報を確認するようにして下さい。
キャリアアップ助成金(正社員化コース)
この助成金は、有期契約社員やパートタイマーなどの非正規雇用者を、正社員として転換した場合に支給される制度です。人手不足に悩む企業が、優秀な人材を正社員として定着させる際に活用されています。
受給額は1人あたり80万円と、比較的高額です。正社員化と同時に基本給の昇給などの処遇改善が必要ですが、それによって社員のモチベーション向上や離職防止にもつながるため、長期的に見て非常に効果の高い制度といえます。
両立支援等助成金(育児休業等支援コース)
この制度は、育児休業を取得する社員が安心して職場に復帰できるような体制を整備した企業に対して支給される助成金です。女性活躍推進や、育児と仕事の両立支援を目的としています。
対象となるのは、育休の取得と職場復帰を支援する社内制度を導入し、実際に休業→復職があった企業です。受給額は段階的に支給され、合計で60万円が支給されます。
子育て世代の離職を防ぎ、企業イメージ向上にもつながるため、採用面でもプラスに働く制度です。
人材開発支援助成金(人財育成支援コース)
この助成金は、従業員のスキルアップや職務能力の向上のために研修を行った場合、その研修費用や研修中の賃金を一部補助する制度です。
OJT(職場内訓練)やOFF-JT(社外講座・研修)など、目的や内容に応じて複数のコースが用意されています。中小企業の場合、経費の最大70%、賃金補助として1時間あたり最大1000円程度が支給されるケースもあります。
教育に予算を割きにくい企業にとっては、人材育成の大きな後押しとなる助成金です。
業務改善助成金
この制度は、最低賃金の引き上げに対応しつつ、生産性向上のために設備投資を行う企業に対して支給される助成金です。
たとえば、タブレット端末や勤怠管理ソフトの導入、作業効率化のための機械設備の購入などが対象になります。助成額は最大600万円(投資額や改善対象労働者数に応じて変動)と高額で、近年特に注目されています。
最低賃金の引き上げは毎年続いているため、早めの対策として活用する企業が増えています。
トライアル雇用助成金
この助成金は、若者やミドルシニア層、就職困難者などを試用期間付きで雇用した場合に支給される制度です。
正式採用前に3か月間などのトライアル期間を設けることで、雇用のミスマッチを防ぎつつ、支援金も得られるという利点があります。受給額は1人あたり月額最大4万円×最大3か月ですが、採用コストを抑えられる仕組みです。
申請にあたっての注意点
助成金を活用する際に最も注意しなければならないのが、「申請のタイミング」と「書類の整備状況」です。
多くの助成金は、制度を導入する“前”に計画書を提出する必要があります。つまり、「助成金を使いたいから制度を導入する」のではなく、「制度を導入する前に助成金の要件を確認し、計画書を提出しておく」ことが絶対条件となります。
たとえば、キャリアアップ助成金を使ってパート社員を正社員に転換する場合、転換の前に「キャリアアップ計画書」の提出と、就業規則への制度明記が必要です。これを後回しにしてしまい、実際に正社員化した後に慌てて助成金の存在を知ったとしても、残念ながらそのケースは対象外となってしまいます。
また、助成金の申請には、提出書類が非常に多く求められます。代表的なものとしては、以下のようなものがあります。
- 就業規則(労働基準監督署に届出済のもの)
- 雇用契約書
- 出勤簿
- 賃金台帳
- 雇用保険加入状況を証明する書類
- 該当社員の研修記録や制度利用記録など
これらの書類が、「形式的にそろっているだけ」ではなく、「内容に整合性があるか」が審査の重要なポイントとなります。
たとえば、雇用契約書では正社員と記載されているのに、就業規則や出勤簿にはそれを裏付ける情報が記載されていない場合、不支給になる可能性があります。
さらに、制度導入後の実態も重視されます。助成金のために形だけ制度を導入し、実際には運用されていないと判断されれば、調査の際に返還を命じられるケースもあります。つまり、助成金の申請は「書類上の整備」と「実態の一致」の両輪で成り立っているのです。
これらを踏まえると、助成金申請には以下のような心構えが必要です。
- 制度導入前に、必ず助成金の対象となるか確認する
- 書類は普段から整備し、必要に応じて修正・更新する
- 形式的ではなく、実際に制度が運用されるように社内で説明・周知する
- 計画から実施、申請、支給までのスケジュールを逆算して進める
助成金をもらうためだけに制度を導入するのではなく、「制度導入に助成金が活用できる」という考え方が大切です。
まとめ|助成金は“経営改善のチャンス”でもある
助成金は、返済不要であるという点で、企業にとって非常にありがたい制度です。
しかしそれは単に「お金がもらえる」ことが目的ではありません。
助成金の本質は、企業がより良い労働環境を整備し、人材を育成・定着させていくための“きっかけ”となることにあります。とくに中小企業にとっては、限られた経営資源のなかで新しい制度を導入することは容易ではありません
そんなとき、助成金を上手に活用することで、社員の意識が変わり、組織が成長し、経営の方向性にも良い影響を与える可能性があるのです。
たとえば、次のような成果が得られます。
- 正社員登用によって社員のモチベーションが向上し、離職率が低下した
- 育児支援制度を整備したことで、女性社員の定着率が上がり、採用力も向上した
- 研修制度を導入したことで若手社員の育成スピードが上がり、現場の負担も軽減された
- 労務管理が整備されたことで、従業員とのトラブルが減り、経営リスクが低下した
このように、助成金は単なる「補填」や「資金援助」ではなく、経営改善・組織づくり・労働環境整備の後押しとなる存在です。
とはいえ、助成金の制度は毎年変更され、細かい要件が多く、自社で調べるには限界があります。まずは信頼できる社労士などの専門家に相談しながら、自社の経営課題を見つめ直し、「助成金を使ってどんな改善ができるか?」を考えてみることが重要です。