助成金は自社で申請できる?失敗しないための7ステップ完全ガイド【2025年対応】
はじめに|助成金は“制度”ではなく“プロセス”を知ることがカギ
助成金は、中小企業が人材確保・育成・職場改善などに取り組む際に活用できる、返済不要の公的支援制度です。
「使いたいけど、手続きが複雑そう」「社内に知識がないから外注するしかない」と思われがちですが、実は“段取り”さえ押さえれば、自社でも十分に申請できます。
この記事では、数多くの申請支援を行ってきた社会保険労務士の立場から、中小企業が自社で助成金申請を行うための“7つの実務ステップ”を、具体例を交えて丁寧に解説します。
ステップ1:労務管理の基本を整える(助成金の土台づくり)
助成金は、「制度を導入すれば必ずもらえる」ものではありません。申請の大前提は、「企業として労働関係法令を守っているか」です。以下の項目をチェックしましょう。
【確認ポイント】
・雇用保険にきちんと加入している(週20時間以上の従業員)
・労働保険・社会保険料に滞納がない
・就業規則が最新の内容で、労基署に届出済みである
・労働条件通知書、雇用契約書、賃金台帳、出勤簿が正しく整備されている
・残業代の未払い、最低賃金違反などの問題がない
たとえば、「固定残業代制度」を導入している企業では、正しく運用されていなければ最低賃金違反となり、助成金は一切受けられません。労務管理の不備は、すべての助成金申請を阻む“地雷”となるため、制度の検討より先に、必ず整備しましょう。
ステップ2:最新の助成金情報を収集する(制度の選定)
助成金制度は毎年改定されます。廃止されたり、金額が変更されたり、提出先が変わることもあります。まずは厚生労働省や都道府県労働局の公式サイトで最新の支給要領や制度一覧を確認しましょう。
【情報収集のコツ】
- 「厚生労働省 助成金」で検索し、公式ページからPDF一覧をダウンロード
- 各助成金の「支給要領」「申請マニュアル」「申請様式」をチェック
- ハローワークや労働局の助成金相談窓口に電話で確認することも可能
助成金は、「誰でも・何にでも使える」ものではありません。「今、自社が抱える課題に対してどの助成金がマッチするか?」という観点で情報を集めましょう。
ステップ3:制度導入の目的を明確にする(“助成金ありき”を回避)
多くの企業が陥りがちなのが、「お金がもらえるから何か制度を入れよう」という発想。
これは助成金活用の失敗パターンです。
助成金は、制度導入や人材戦略の“目的達成”をサポートするための道具です。そのため、自社の経営課題と向き合い、目的を言語化することが重要です。
目的設定の例
- パート社員の定着率を上げたい(→キャリアアップ助成金)
- 育児から復帰しやすい環境を整えたい(→両立支援等助成金)
- 社員教育の体系を作りたい(→人材開発支援助成金)
- 生産性を上げて最低賃金の引き上げに備えたい(→業務改善助成金)
目的が明確であるほど、制度設計や書類作成もスムーズに進みます。
ステップ4:計画書・事前届出を正しく提出する(“ここ”を間違えるとすべて無効)
助成金制度の多くでは、対象となる取り組みを“実施する前”に、計画書や事前届出を提出する必要があります。これを怠ると、どれだけ素晴らしい制度を導入しても「不支給」となってしまいます。
主な届出書類
- キャリアアップ助成金:キャリアアップ計画書(転換前)
- 両立支援等助成金:育児休業取得予定届(育休前)
- 人材開発支援助成金:訓練実施計画届(研修前)
届出は、労働局、ハローワーク、職業能力開発協会などに提出します。最近では一部制度において電子申請(e-Gov)にも対応しています。
この“事前届出”を忘れると、後からどんなに努力しても助成金は受け取れません。スケジュールは逆算し、計画的に準備を進めましょう。
ステップ5:制度を実施し、記録を残す(証拠づくりと実態の一致)
届出後に制度を実施する際には、“証拠を残す”ことが最大のポイントです。書類があっても、実態が伴っていない、もしくは記録がない場合、支給申請時に不支給となるリスクがあります。
証拠の一例
- 正社員転換:新旧の雇用契約書、転換通知書、賃金台帳、出勤簿
- 研修実施:研修資料、受講者名簿、写真、アンケート、日報
- 育児休業:申請書、育休期間の出勤簿、復職通知
記録は紙でもデジタルでも構いませんが、日付・実施者・対象者が明確に残る形式で保管しておきましょう。「誰が・いつ・何をしたか」がわかることが大切です。
ステップ6:制度の定着と労務管理の継続(助成金の“維持条件”)
助成金は一時的な制度ではなく、「制度導入が職場に根づいているか」が審査の対象になります。そのため、「受給したら終わり」ではなく、その後の労務管理の維持も重要です。
注意点
- 転換後すぐに自己都合以外で退職させた場合、不支給・返還対象になることも
- 就業規則に明記した制度が実際には運用されていないと判断された場合、支給取消
- 助成金受給後に労基署から是正勧告を受けた場合、将来の助成金が不支給になる可能性
制度の運用状況について、労働局から実地調査(実態確認)を受けることもあります。助成金は「制度の形」ではなく「制度の運用」を見られるという意識が必要です。
ステップ7:支給申請と書類提出(最後まで手を抜かず、確実に)
制度を導入し、要件を満たしたら、期日内に支給申請を行います。この段階でもっとも多いミスは、「書類の不足・誤記入・期日超過」です。
提出する書類の一例
- 支給申請書・チェックリスト
- 就業規則、雇用契約書、賃金台帳、出勤簿など
- 実施報告書、制度の運用記録、写真や資料
- 添付資料(振込先情報、会社概要、登記事項証明など)
書類提出先は、事前届出と同様に制度ごとで異なります。期日(例:制度終了の翌々月末など)を必ず確認し、余裕を持って準備しましょう。また、支給決定後も書類の保管義務(5年間)が課されるケースもあるため、整理・保存にも注意が必要です。
まとめ|助成金を“自社で活かせる力”が会社を強くする
助成金を受給すること自体がゴールではありません。本当の価値は、そのプロセスの中で得られる「会社としての成長」にあります。
たとえば――
- 就業規則や契約書の見直しを通じて、労務管理が整う
- 社員のキャリアパスを明確にすることで、定着率が向上
- 教育制度の構築によって、現場の指導力と自信が育つ
- 制度導入を通じて、会社と社員の信頼関係が深まる
つまり、助成金を通じて、会社の仕組み・ルール・人材の基盤がレベルアップするのです。
もちろん、最初は不安もあるでしょう。制度の理解、書類の整備、スケジュール管理など、一つひとつの作業は地道で、時には手間がかかります。しかし、一度でも自社で申請の流れを経験すると、「この程度ならできる」という自信とノウハウが蓄積されます。
そして何より、助成金は“使った会社”だけにチャンスが与えられる制度です。知っている会社と知らない会社、動いた会社と動かなかった会社では、3年後、5年後に大きな差が生まれます。