中小企業の助成金活用成功事例5選|実際にあった支給パターンと効果とは?

はじめに|助成金の「成功事例」を知る意味とは?

「助成金って本当に役に立つの?」
「制度が複雑そうで、うちにはハードルが高い気がする…」

そう感じている中小企業の経営者や人事担当者の方も多いのではないでしょうか。しかし、実際には多くの中小企業が助成金を上手に活用し、人材確保・定着・育成、職場環境の整備といった経営課題の解決につなげています。

本記事では、そうした助成金の活用に成功した中小企業の事例を5つご紹介します。制度名や金額、条件は申請当時のものですので、実際に活用を検討する際は厚生労働省や都道府県労働局のホームページなどで最新情報を確認してください。

事例1|パート従業員を正社員化し、職場の安定と生産性アップ(キャリアアップ助成金)

業種:サービス業/従業員数:15名/地域:東京都

【背景と課題】
長年働いていたパート従業員を継続雇用したいと考えていたものの、待遇や責任の線引きが曖昧で、社員間の不公平感やモチベーションの低下が問題に。

【取り組み内容】
正社員登用制度を就業規則に整備し、対象者との面談や研修を実施。給与体系や評価制度も見直し、明確な基準での正社員転換を行った。

【活用助成金】
キャリアアップ助成金(正社員化コース)
※受給額は申請当時で1人あたり約57万円(生産性要件加算あり)

【効果】
転換された従業員が中堅人材として職場をリードする存在になり、周囲のパート従業員にも良い刺激を与えた。離職率も下がり、チームワークが向上。

【ポイント】
この事例の成功要因は、「助成金ありき」ではなく「正社員化が必要」という課題を起点に制度設計がなされた点にあります。
単に肩書きや雇用形態を変更するのではなく、処遇改善・制度整備・人材育成の3点セットで取り組んだことが、助成金の受給と組織の成長の両立につながりました。
また、転換後のフォロー(定期面談や評価フィードバック)も行うことで、「制度が形だけで終わらない仕組み」が構築されました。

事例2|育児休業制度を整備して、女性の職場復帰と定着を実現(両立支援等助成金)

業種:小売業/従業員数:30名/地域:愛知県

【背景と課題】
出産・育児を理由に離職する社員が多く、せっかく育てた人材が流出するという負のサイクルに。

【取り組み内容】
育児休業制度の周知徹底と、復帰後の短時間勤務制度を整備。さらに、制度利用者の業務内容や配置を柔軟に見直す体制を構築。

【活用助成金】
両立支援等助成金(育休取得・職場復帰支援コース)
※受給額は申請当時で約93万円(複数段階支給あり)

【効果】
出産後も安心して復帰できる職場として、女性社員の定着率が飛躍的に向上。さらに、求人時にも「育児支援がある会社」として応募数が増加。

【ポイント】
この事例で重要なのは、単に制度を設けただけでなく「使いやすい運用」まで整備した点です。助成金の要件を満たすには書類上の制度整備が必須ですが、実際には社員が安心して利用できるよう、職場の風土づくりや同僚への理解促進も欠かせません。
また、上司・管理職が制度の内容を正しく理解していることが、運用の成否を分けるカギとなります。つまり、「制度+教育+フォロー体制」が整ってはじめて、助成金が活きるのです。

事例3|新人研修制度の整備で人材育成と現場の負担軽減(人材開発支援助成金)

業種:製造業/従業員数:45名/地域:新潟県

【背景と課題】
新人教育を現場任せにしていたため、教育内容にムラがあり、離職も多かった。特に繁忙期には育成の余裕がなく、悪循環に。

【取り組み内容】
OFF-JTを導入し、外部講師による研修を実施。研修内容は文書化し、社内で共有できるマニュアルも整備。受講者の評価やフィードバックも記録として残した。

【活用助成金】
人材開発支援助成金(特定訓練コース)
※受給額は申請当時で5名分 合計約80万円(研修費+賃金助成)

【効果】
研修の標準化により、教育の質が向上。現場社員の育成負担が軽減され、離職率も改善。新入社員の定着が進み、採用活動の効率も上がった。

【ポイント】
この事例では、「研修制度の見える化」と「運用体制の整備」が成功のカギでした。人材開発支援助成金を活用するには、研修内容・受講記録・出席管理・評価記録などを正確に残す必要があります。その過程で、自然と社内に研修体制の基盤ができ、助成金が“制度構築のきっかけ”となった点が非常に意義深いといえます。また、研修の内製化が進んだことで、将来的な人材育成コストの削減にも寄与しています。

事例4|設備投資で業務効率化と賃上げを実現(業務改善助成金)

■ 事例4|設備投資で業務効率化と賃上げを実現(業務改善助成金)
業種:介護事業/従業員数:20名/地域:大阪府

【背景と課題】
最低賃金の上昇により、人件費が経営を圧迫。一方で、職場は常に人手不足で、負担も増大していた。

【取り組み内容】
タブレット端末とクラウド型勤怠管理ソフトを導入し、記録業務と勤務管理を効率化。削減した時間を利用して職員に研修時間を確保し、生産性向上に。

【活用助成金】
業務改善助成金
※受給額は申請当時で約200万円(対象人数・設備費による)

【効果】
時間外労働が減少し、職員の満足度が向上。業務効率化により、人件費の見直しが可能になり、全体的な賃金水準を改善できた。

【ポイント】
この助成金のポイントは、「設備導入=業務改善」と評価されるかどうかです。つまり、ただ機器を導入しただけではなく、それがどのように業務改善や賃上げにつながるのかという“因果関係”を明確に説明できるかが大切です。また、賃上げの実施内容(支給日・改定後の賃金)を正確に証明できる書類(賃金台帳など)も不可欠です。助成金をゴールではなく、賃上げ・職場改革のスタート地点として捉えた好事例です。

事例5|シニア人材の活用で現場に活力と技術を(トライアル雇用助成金)

業種:建設業/従業員数:12名/地域:栃木県

【背景と課題】
若手不足が深刻で、現場を回せる即戦力がいない。技術継承も滞り、職場の生産性が下がっていた。

【取り組み内容】
経験豊富な60代求職者をトライアル雇用し、スキルや適性を見極めながら、若手社員とのペア制で現場に配属。本採用後は技術講習の講師役も任せた。

【活用助成金】
トライアル雇用助成金
※受給額は申請当時で月額4万円 × 最大3か月(計12万円程度)

【効果】
即戦力の確保に成功し、若手への技術伝承もスムーズに。高年齢者の雇用促進にもつながり、ハローワークや地域社会からの信頼も得られた。

【ポイント】
この助成金の活用で大切なのは、“雇用のトライアル”で終わらせないことです。受け入れた人材を戦力として定着させるには、シニアに配慮した勤務時間や業務内容の調整、社内の受け入れ体制が必須です。また、若手社員との協働により、技術の継承という「組織的価値」も生み出せるため、単なるコスト削減を超えた成果につながりました。

まとめ|助成金は「活用すること」より「活かし方」が重要

助成金は、企業が本来行うべき制度整備や人材育成を、“少し背中を押してくれる”支援制度です。そのため、助成金をうまく活用している企業には、以下のような共通点があります。

・助成金を「目的」ではなく「手段」として使っている
・制度導入にあたり、現場とのすり合わせを丁寧に行っている
・要件やスケジュールを把握し、事前準備をしっかり行っている
・書類の整備と、制度の“実際の運用”の両方に真摯に取り組んでいる

また、成功事例を見てわかる通り、助成金は企業規模に関係なく、課題のある中小企業こそ有効に使える制度です。

これから助成金を活用しようと考えている企業は、まずは「自社のどこに課題があるのか?」を見つめ直すことが出発点です。助成金は、それに対する“解決の手段”として活用できる選択肢の一つにすぎません。

そして、制度は年々変更されます。金額・対象者・申請要件などの最新情報は、必ず厚生労働省や都道府県労働局の公式情報を確認してください。

助成金を単なる“もらえるお金”として捉えるのではなく、経営と労務管理を進化させるツールとして向き合うことで、会社と社員の未来を変えるきっかけにできるのです。

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